大蔵建設株式会社
パッシブデザインとOMソーラー
OMの考え方
どの家の屋根にも降り注ぐ太陽。
これを利用しなければもったいない。
夏にいい風が吹けば、それを活かさなければもったいない。
自然の力を活かして、「ほどよく」気持ちのいい家をつくろう
というのがOMの考え方です。
パッシブとは
「パッシブ」を知ると、今まで気づかなかった新しい世界が見えてきます。
いまそこにある自然の恵みを余さず活かし、四季を感じながら心地よい暮らしをしたい。これがOMソーラーの考え方であり、「パッシブ」の発想です。
太陽や風などの自然エネルギーを建築に取り入れ、活かす技術や仕組みをパッシブソーラーシステムといいます。OMソーラーは、 太陽の熱を屋根で集めて利用するパッシブソーラーシステムの手法の一つです。
太陽エネルギーを利用するソーラーシステムのうち、集熱器のような特別な装置で太陽熱を利用したり、 電力に変換したりするのがアクティブソーラー。これに対し、建築的な方法や工夫によって太陽エネルギーを利用するやり方をパッシブソーラーといいます。
パッシブの基本は、「熱や力を自然のまま利用し、しかも汚れを生まない」こと。 自然のチカラをできる限り活かして気持ちのいい家をつくろう、というのがOMの考え方です。
パッシブという考え方
熱や力を自然のまま利用する。しかも、汚れを生まない。
パッシブという言葉を聞いたことがありますか?
パッシブとはアクティブ(能動的)の反対語で、「受動的」という意味です。
具体的に言うと、帆に風を受けて進むヨットや、空を飛ぶパラグライダー、夏の打ち水、干した布団に寝た時のぬくもりなど、 これらはすべて、パッシブのあり方の一例です。一方、海でのモーターボート、空でのジェット機などは、機械の力に頼るアクティブなあり方の一例といえます。
こうしたパッシブなあり方に共通するのは、「熱や力を自然のまま利用し、しかも汚れを生まない」ことです。
こうした考え方をお話しすると、「パッシブは、技術の進化を否定して、昔の生活に戻れということ…?」と思われるかもしれませんが、そうではありません。 パッシブは、自然とより深く関わることによって得られるものを大切にした方が、機械や化石燃料に頼るよりも心地いい暮らしができると考えます。
私たちが生きている世界は、それほど住みにくい環境ではないはずです。基本的に私たちはここに生まれてきた生物ですから、この世界と大きく矛盾しているはずはありません。
人工的な環境の「快適」さに慣れすぎると、外へ出た際に体の変調をきたす原因にもなります。人工環境が、人間が本来もつ耐寒・耐暑の適応能力を低下させるからです。
初めからアクティブな方法に頼り切るのではなく、まずはパッシブなやり方で自然の力を活かし、足りない分はアクティブで補う。 それは、健康によく、かつ地球に負荷をかけない方法です。
季節を楽しみ、自然と共生してきた日本の家
太陽が暖かい。吹く風が心地よい。鳥のさえずり、虫の声、渡る風の音が聞こえる。日本の家は本来、外に対して開放的につくられ、自然を受け入れていました。
それが現代は、住まいを外の世界から遮断して、その中だけを設定室温に保つことで快適性を高める家づくりが当たり前になってきているようです。
もっと自然に、もっとやわらかく。いい風が吹いていたら、太陽の陽射しが温かかったら、それを活かせる家づくりをしたい。自然と折り合いをつけながら、建築の中に知恵と工夫を生かしていけば、より快適で、より人間的で、そして環境負荷の少ない暮らしができるはず。
人間が自然の一部であるという考え方や、脈々と受け継がれてきた自然と共にある日本の家づくりは、これからの、私たちの生き方までも示唆する方向です。
そしてそのキーワードが、パッシブなのです。
パッシブだけで足りないときは。
自然の力を活かすのはいいけれど、それだけでは足りないという見方があります。確かに、お天気や地域の気候に左右されることは避けられません。でも、太陽が顔を出さない時、それで足りない時には無理をせず、補助暖房や冷房装置を動かせばいいと考えます。
「せっかく家をつくるなら、まずは自然エネルギーを上手く使おう。それで足りない時は他で補おう。」という発想です。
人間には本来、体温を調節したり衣服を着たりと、環境に適応する能力や知恵が備わっています。 もともとある人間や自然の力を生かして、冬は冬らしく、夏は夏らしく過ごしながら、ちょうどいい状態をつくりだそうというのが、パッシブの発想であり、OMソーラーのやり方です。
ウサギとカメ~OMにはできないこと
OMソーラーはあくまでパッシブシステムです。自然エネルギー以上のことはできませんし、太陽が顔を出さなければ、OMもその力を発揮できません。
たとえば、OMソーラーは、エアコンやストーブなどのように部屋の温度を一気に上げることはできません。ウサギとカメのお話でいけばカメ型です。
OMソーラーでは、床下の基礎コンクリートに太陽の熱を貯めていきます。蓄えるのに時間がかかりますが、一日に貯めた分を夜にすべて使い切ってしまうわけではありません。何日もかけて少しずつ熱を貯めていきます。「一日」単位、さらには「ひと冬」という単位での長距離競争に強いのです。
とはいえ、いますぐ暖かさが欲しいときもあります。そんなときは、ストーブなどの暖房器具を短時間だけ使い、あとはまたOMにまかせる、というように足りない分を補います。
急速暖房の他にも、できないことがあります。
• 真冬に太陽の熱でお湯をつくる
• エアコンのような冷房
• OMで温めた空気で煮炊き
• 雨や雪の日に集熱
これらのことは、パッシブシステムであるOMソーラーにはできません。
ルネ・デュポス教授の言葉
ロックフェラー大学のルネ・デュポス教授が記した、次のような言葉があります。
「現代では、空気調節装置のおかげで、地球上いたるところで、 宇宙船のなかにまでも、年中亜熱帯気候を保つような人為的な環境をつくりだすことが可能である。 しかし、原始人は進化の発達段階を通じてずっと、明らかな昼夜および四季の温度変化に身をさらしていたことを考えると、 私たちが住まいや職場の温度を常に華氏72度(摂氏約22~24度)に保つのは、生物学的に不健康であるかもしれない。 本当に望ましい空気調節方式というのは、恐らく昼夜および四季の変化があるように計画するべきものであろう」。
社会が原始時代に戻ることは決してありませんし、暑さ寒さはできるだけしのぎたいと願います。 でも、住まいを考える上で大切な示唆が含まれた言葉ではないでしょうか?
地球も巨大なパッシブシステム
自転する地球とOMソーラー。
地球は、水の惑星と言われます。地表の水のうち97%を占める海。この水を太陽が 温め、蒸発した水が大気の上昇運動によって上空へ運ばれ雲になり、やがて雨となって地表に戻ってきます。地表の水や空気が上に昇ると、今度はまわりから冷たい空気が入り込んで風をおこします。
これらは自然の法則であり、地球そのものが巨大なパッシブシステムと言えます。
このパッシブシステムを成り立たせる条件の一つに、地球の自転があります。地球が自転しているおかげで、いつもどこかで昼があり、夜があります。
朝や昼のところでは太陽の日射を受け、夜のところは漆黒の宇宙空間へ熱を放射することで、地球は熱くなりすぎたり、冷たくなりすぎたりすることなく、バランスよく環境を保っているのです。 もし地球が自転していなかったら、地球の半分は、太陽にさらされ続ける酷暑の地となり、反対側は漆黒の宇宙とだけ向かい合う酷寒の地となっていたことでしょう。
太陽の熱エネルギー
私たちの頭のすぐ上に降り注ぐ太陽エネルギー。これを使わないのはもったいない。でも、実際の暮らしでどのくらい「使える」ものなのでしょうか?
OMソーラーは、自然の力をできるだけ活かそうという技術です。その考え方はいいけれど、自然の力だけでどこまでやれるの?と思われるかもしれません。
でも、そもそも住宅において私たちが必要とする温度はそれほど高くないのです。
太陽の熱エネルギー
太陽は、一日に1.49×10の19乗kj(キロジュール)の熱を地表に届けています。
これは、世界で1年間に使うエネルギー(石油換算:87億キロリットル)の、なんと16,000倍。
何もしないでも、これだけの熱が、私たちのすぐ頭の上にあり、家々の屋根に降り注いでいます。太陽のエネルギーは、最も身近なエネルギーと言えます。
もったいない!
もともと、私たちが住宅において必要とする温度はそれほど高くありません。冬の室温は20℃程度に保たれればよく、 給湯も40℃程度あれば事足ります。冷房は外気温から5℃程度低ければ快適です。
これらは、きわめて低レベルなエネルギーということができます。この程度のエネルギーに対して、 果たして2000℃ものソース(石油などを燃やした時の炎の温度)を消費する必要があるでしょうか。
左グラフにある通り、家庭用エネルギー消費の半分以上が低レベルな熱エネルギーであり、これらは自然の力を活かせば相当分まかなえます。
パソコンを動かすには、高レベルな電気エネルギーを必要としますが、暖房・給湯などに用いるエネルギーは、どれも低レベルなのです。
そうかといって、高度な電気エネルギーを否定しません。むしろ今後ますます必要になるでしょう。だからこそ、 家庭用エネルギーに高度なエネルギーを使うのはもったいない話です。その用途に見合ったエネルギーとして、太陽熱を有効に使いたいのです。
OMからのメッセージ
私たちは、ほどよく涼しければいいのであって、四六時中クーラーを回していたいわけではありません。
日向ぼっこの暖かさが嬉しいのであって、むやみに石油を浪費したいわけではありません。
お風呂や台所のお湯が欲しいのであって、原子力発電が欲しいわけではありません。
大事なことは、温かさや、涼しさや、お風呂や台所のお湯です。
一軒の家で消費するエネルギーの用途のうち、暖房・給湯が半分以上を占めています。
暖房なら20℃、給湯なら40~60℃もあればいいわけで、それなら太陽熱で十分につくりだせる温度です。
エネルギーマイルズの話
エネルギーをつくる過程にも目を向けてみます。
遠い中東からの石油にエネルギーを頼り切っているのは、よくよく考えると変なことです。そんなことを、日本はもう数十年来も続けています。
食べ物にしても、建材にしても、エネルギーにしても、同じこと。できるだけ近くにあるものを使えば、輸送コスト―環境負荷を減らすことにつながります。
高度エネルギーは、最終的に使われるまでのプロセスが、採掘、精製、貯蔵、輸送、発電、送電など、複雑で重厚長大です。それが「高度」といわれる理由でもありますが、 途中のロスが多く、大気汚染や放射性廃棄物などのゴミ処理も大きな問題です。
それに比べ、太陽熱エネルギーは、エネルギーの変換ロスが非常に少なく、巨大な装置に頼らなくても、私たちのすぐ頭の上に、屋根の上に、降り注いでいます。
「広く」「薄く」「まんべんなく」降り注ぐ太陽エネルギーは、一軒一軒の住宅が屋根そのものを受熱体として利用する方法が最も現実的であり、 エネルギーの性格に非常によくマッチしています。
OMの成り立ち
OMソーラーは、一人の建築家が考案した技術です。
OMソーラーは、一人の建築家が考案した技術です。
ひとりの建築家が提唱したパッシブシステム
1973年、第1次オイルショックの年、アメリカの建築家A.バウエン氏がひとつの建築運動を提唱します。それがバッシブシステムです。
彼は主張します。「どんなに大容量のエアコンを使ったところで太陽に比べたらエネルギー量でかなうわけがない。 石油を使って暑さや寒さを力まかせに抑え込むのは、自然と喧嘩するようなものだ。 必要なのは太陽や風や木陰がもつ心地よさを活用できる建物の仕組みなのだ」と。
フロリダという蒸し暑い気候の中で、石油を大量に使うのではなく、自然エネルギーで快適さを得る方向を目指したのです。
パッシブとはアクティブ(能動的)の反対語で、「受動的」という意味です。
具体的に言うと、帆に風を受けて進むヨットや、空を飛ぶパラグライダー、夏の打ち水、干した布団に寝た時のぬくもりなど、これらはすべて、
パッシブのあり方の一例です。一方、海でのモーターボート、空でのジェット機などは、機械の力に頼るアクティブなあり方の一例といえます。
パッシブシステムは、太陽エネルギーをはじめとする自然エネルギーを巧みに建築の中に生かす技術のことであり、 機械設備を大量に製造して売るようなわけにはいきません。それを担う建築家や工務店が必要になります。
また、機械に頼り過ぎず自然を活用するという点で、パッシブの発想はシンプルですが、自然エネルギーを有効に活用するためには、 自然の力を解析するための高度な技術が必要です。
※氏はPLEA(Passive and Low Energy Architecture)国際会議を提唱し、熱心に説いて回り、 その足跡は世界60数か国に及びました。この会議は彼の遺志を継いでいまでも毎年開かれており、日本でも89年に奈良で、 97年には釧路で開催されました(OMソーラー(株)は、この2回の会議の事務局を務めました)。
1987年、OMの家が誕生するまで
A.バウエン氏がパッシブシステムを提唱した1973年よりも前から、日本でパッシブに取りくむ建築家たちがいました。その中のひとりが奥村昭雄。 彼は、「建物は熱も空気もデザインするべきだ」とつねづね考えていました。
1960年代から奥村昭雄の中に芽生えていたという環境共生的な考え方の源は、「パッシブ」という言葉と出会う前から抱き続けてきた、 樹木・植物・生物など、自然の中で生き続けるさまざまなものたちへの尽きない興味、観察、発見、驚き、感嘆、そして自然に対する畏敬へと遡ります。 自然との応答、環境との調和の中から生まれたそれぞれの生き物たちに宿る固有のシステムに美しいデザイン性を見るとともに、このことは、 奥村の「建築物を環境との応答という関係から考える」という思想の原点となっています。
奥村がこの考え方を大きく膨らませたのは、東京藝術大学の教師時代でした。朝夕通り抜けていた上野公園で、季節ごとに姿を変え生長する樹々たち。 「樹というものは、シンプルな規則性の繰り返しだ」という話題の中から、院生の一人が樹の枝分かれの規則性だけの簡単なソフトをつくりました。 数値を入れ替えてみるといろいろな樹らしい形がコンピュータの画面に表れるものです。ところが画面の樹が行き詰まりを見せるのです。 なぜなら、コンピュータの樹には環境の作用がないからです。だから、画面の樹は年もとらず、葉も落とさないのです。このことから奥村は、 実際の自然の樹は、外環境との応答を繰り返しながら、そのかたちをつくり上げている、本当の意味でのパッシブシステムであると実感します。
建築は地に根付き動きません。常に環境とともにある存在です。建築物と環境との応答関係が捉えられれば、 それを設計に応用してより良い建築環境をつくる方法が分かるだろうと、すでにコンピュータを使ってそれを解くことに取り掛かっていた奥村は、 ここに「樹の生長の姿」を重ね合わせたのです。太陽熱を含め、自然エネルギーを建築に利用する研究を始めたのは、この少し前からのことです。
奥村は、吉村設計事務所時代に担当した東京・虎ノ門にあるNCRビル(1962年竣工)で、 窓を二重にしてその間に空調の排気を流すことで室内環境の改善を図り、快適性と省エネの両立を実現します。そして、1973年には、 ポット式石油ストーブで温めた熱い空気による床暖房を試みた住宅「星野山荘」を設計します。これがOMソーラーの家の原点となります。
熱と空気をコントロールして室内に快適な環境をつくりだすことからスタートした奥村昭雄の研究は、 太陽の熱を利用するソーラーシステムの開発へとつながっていきます。1977年には、水集熱式ソーラーシステムを、1979年には、 OMソーラーの技術の基礎ともいえる「空気集熱式ソーラーシステム」をもつ住宅が設計されました。
しかし、ここから「OMソーラーの家」といえるシステムが誕生するまでには、さらに8年という長い年月がかかります。 このころ、奥村のまわりには建築家や研究者の仲間たちが自然発生的に集まり、この「面白がり屋たち」も、 いろいろな案を考え持ち寄り合ってさまざまな試みを行っていました。1983年に建てられた、日野自動車の社員のレクリエーション施設では、 設計に初めてコンピュータを使い、時間とともに複雑に変化する環境と建築物の関係を解く試みを行っています。OMシミュレーションが産声を上げた、 最初の例です。
こうして太陽熱や自然エネルギーの利用などについての実験や研究会がもたれる中で、たくさんの技術が生まれ、そしてそれらが統合され、 1987年、OMソーラーシステムが誕生したのです。
奥村昭雄 Akio Okumura
1928年東京生まれ。1952年東京美術学校建築科卒業。
吉村順三設計事務所を経て、現在、東京藝術大学名誉教授。
木曽三岳奥村設計所主宰。
著書
『奥村昭雄のディテール 空気・熱の動きをデザインする』(彰国社)
『パッシブデザインとOMソーラー』(建築資料研究社)
『暖炉づくりハンドブック』(建築資料研究社)
『時が刻むかたち』(OM出版)
『樹から生まれる家具』(OM出版) 他
OMは何の略?
Oは「おもしろい」、Mは「もったいない」を意味しています。「環境」といわれると、とかく四角四面になりがちですが、 環境技術はそのための術であって、人の気持ちが駆り立てられるような、「おもしろさ」に満ちたものでありたいものです。
この地表に燦々と降り注ぐ太陽の熱を使わないのは「もったいない」。太陽があれば太陽を、いい風が吹いていればその風を、 樹木が立っていればその樹を。知恵と工夫で余さずにいただこうというのがOMソーラーの原点です。